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那覇地方裁判所 平成6年(行ウ)7号 判決 1996年12月03日

原告 砂川清治

被告 宜野湾市固定資産評価審査委員会

主文

一  原告の請求を棄却する

二  訴訟費用は、原告の負担とする。

事実及び理由

第一請求

原告が別紙物件目録記載の家屋(以下「本件家屋」という。)に対する平成六年度固定資産課税台帳登録価格(以下「本件登録価格」ともいう。)について行った審査の申出に対して、被告が平成六年六月九日付でした右申出を棄却する旨の決定は、これを取り消す。

第二事案の概要

一  事案の要旨

本件は、沖縄県宜野湾市長(以下「宜野湾市長」という。)が本件家屋に対する平成六年度固定資産課税台帳登録価格を金四億〇九〇〇万四〇〇〇円と定めたことにつき、同価格が高すぎるから不服であるとして、原告が、被告に対し審査を申し出たが、被告は、右申出を棄却する旨の決定(以下「本件決定」という。)をしたので、原告が右決定の取消しを求めた事案である。

二  争いのない事実等

1  原告は、本件家屋を所有している。

2  本件家屋は、平成五年一月二二日に新築された鉄筋コンクリート造の非木造家屋である。

3  宜野湾市長は、平成六年度の本件家屋の固定資産評価額を金四億〇九〇〇万四〇〇〇円と決定し、これを固定資産課税台帳に登録し、縦覧に供した。

4  原告は、平成六年四月二七日、右登録価格を不服として、被告に対し、審査の申出をしたが、被告は、同年六月九日、右申出を棄却する旨本件決定をし、そのころ、原告に送達した。

三  争点

原告は、本件家屋について宜野湾市長が決定した本件登録価格は適正なものでないから、これを適正であるとした本件決定は取り消されるべきである旨主張する。

したがって、本件の争点は、宜野湾市長が決定した本件家屋の価格が適正であるか否かであり、原告は、宜野湾市長の右決定の基礎となつた宜野湾市固定資産評価員がした本件家屋の評価方法等には、下記1ないし5の違法事由があると主張するので、これらが違法であるか否かである。

1  本件家屋について、物価水準による補正率として一・〇〇を適用したこと

(一) 本件登録価格は、東京都の特別区における物価水準を基にして自治省が作成した固定資産評価基準(地方税法三八八条一項。昭和三八年一二月二五日自治省告示第一五八号。その後に改正されたものを含む。)の「非木造家屋再建築費評点基準表」(別表第12)に基づいて算定されている。

(二) しかし、非木造家屋に係る物価水準による補正率は、昭和三九基準年度において、全国の市町村について同一の物価水準にあるものと推定し、全市町村とも一・〇として決定され、平成六基準年度に至るまでその推定を継続して適用されているものであるが、昭和三九年当時に比べて、非木造家屋についても、木造家屋と同様、建築様式等の変化が大きくなっているのであるから、それに基づいて補正率を一・〇とすることは違法である。

(三) 固定資産評価基準第2章第3節二4(2)においては、「各市町村の単位当たり工事費等の実態からみて特に必要があるものについては、その実態に適合するように所要の補正をして適用するものとする。」とされているが、東京都の特別区と沖縄県の建物価格、資材費及び労務費などには、大きな地域格差があるから〔例えば、日本建築学会建築経済委員会固定資産評価小委員会の「木造家屋及び非木造家屋に係る設計管理費等による補正率の決定並びに物価水準による補正率の決定についての基礎資料の作成について」(甲第二五号証)によれば、非木造家屋の東京と沖縄の地域的格差は、建築価格で六八・二パーセント、労務費で五三・二パーセントと大変大きい。〕、その実態に適合するように減点補正すべきである。

(四) 沖縄県においては、離島県であるがゆえに資材費等は東京都に比べて高いにもかかわらず、木造家屋の「物価水準による補正率」は〇・九〇と定められているのであるから、非木造家屋についても、「物価水準による補正率」は、〇・九〇以下にすべきである。

2  本件家屋について、「病院、ホテル用建物」の経年減点補正率を適用したこと

(一) 固定資産評価基準の「非木造家屋経年減点補正率基準表」(別表第13)において、非木造家屋は、用途別及び構造別に区分され、それぞれ、経年減点補正率が定められている。

しかしながら、経年減点補正率とは、減価償却費と同様な考え方である以上、耐用年数が決定されれば、その補正率は、木造と非木造あるいはその用途や構造によって異にすることなく、同一とするのが正当である(社団法人日本建築学会建築経済委員会固定資産評価小委員会も、「『平成三年度』木造家屋およびプレハブ方式住宅用建物の再建築費評点基準表の改正に関する調査研究」(甲第二四号証)において、「初期減価値を建物の構造別に木造と非木造に区別する必要はない」としている。)。

したがって、全ての非木造家屋について経年減点補正率を同一とするのが相当である。

(二) 仮にそうでないとしても、本件登録価格は、本件家屋全体を「病院、ホテル用建物」と認定して、「店舗及び病院用建物」の経年減点補正率(〇・九八四)により算定されているが、本件家屋は、居宅兼診療所であり、居宅部分が三七一・六六平方メートルあるから、その部分については、「住宅、アパート用建物」の経年減点補正率(〇・八〇〇)により算定されるべきである。

この点、被告は、兼用建物の場合、一棟の中で占める割合が多い主たる用途により決定するのが適当であるとするが、原則としては、建物の用途ごとに経年減点補正率を決定するのが相当である。

3  本件家屋について、見積書に基づいて鉄筋及びコンクリートの使用量が明確な建物として評価したこと

(一) 本件登録価格は、本件家屋の面積が五〇〇平方メートルを超えていることや見積書の提出協力があったことから、コザ県税事務所が、鉄筋及びコンクリートの「使用量が正確な建物」として不動産取得税の評価をした額を引用して算定されている。

しかし、沖縄県の各市町村においては、鉄筋コンクリート造等の非木造家屋の主体構造部の評価は、一般的に、「使用量が不明確な建物」として評価されており、「使用量が不明確な建物」として評価されるよりも、課税庁に協力して見積書などを提出したことによって「使用量が明確な建物」として評価されると損失を被るという不合理を生じる。

したがって、本件家屋の評価も、宜野湾市が一般的に行っている「使用量が不明確な建物」としての評価方法により算出すべきである。

(二) また、本件登録価格は、本件家屋建築のための鉄筋使用量について、見積書の使用量を基にして算定されているが、家屋の各部分別の単位当たりの施工における標準量とは、標準的な家屋の基礎とされた使用量、形式等を指すものであり、通常、家屋の建築においては、特別な事情がない限り、見積書の使用量に比べて実際の使用量が少なくなることが常識であるから、当該基礎とされた使用量の把握は、見積書の見込使用量によるべきではなく、現実の使用量(通常、見積書の見込使用量よりも一〇パーセント程度少なくなる。)によるべきである。

(三) 鉄骨造建物については、見積書等の使用量から一平方メートル当たり五キログラム程度の控除をしているので、鉄筋の使用量についても、鉄骨造建物と同様に控除して評価すべきである。

4  本件家屋について、台風や潮風の被害があることに基づく損耗減点補正率を適用しなかったこと

沖縄県は、台風常襲地域であり、かつ、四方を海に囲まれた島であって潮風の被害の大きい地域である。「固定資産評価基準の取扱いについての依命通達」(昭和三八年一二月二五日自治乙固発第三〇号。以下「依命通達」ともいう。)においても、台風や潮風の被害による損耗の大きい家屋については、損耗減点補正率を適用してよいことになっているから、本件家屋についても、損耗減点補正率を適用して評価すべきである。

5  本件家屋について、県知事が通知した評点数に基づいて、これを平成六基準年度の評点数に置き換えて評価したこと

(一) 不動産取得税は、土地又は家屋を取得した事実に対して課税するものであるから、課税対象となる土地又は家屋の評価は随時取得の現況において行われる。そこで、固定資産税の課税に際しては、当該土地又は家屋について固定資産税の賦課期日までの間にその価格が変動するものもあるから、そのような場合には、不動産取得税の課税のために道府県知事がした通知価格に基づいて固定資産税の課税対象を評価することは、評価の適正を欠くものと言わざるを得ない。このような場合には、当該土地又は家屋について、地目の変換、改築、損壊その他特別の事情があるために通知価格によりがたい場合と同様に、固定資産評価員は独自に評価すべきである。

本件家屋の場合、固定資産税の賦課期日までの間に価格が変動して時価が下がっているから、県知事のした通知価格に基づいた固定資産の評価方法は適正を欠く。

(二) 平成元年を基準年として平成四年から平成六年までの物価の動向をみた場合、価格は値下がりしているにもかかわらず、建設資材の価格は、前基準年度より一二・二パーセント増という評価がされている。

本件家屋は、平成五年一月に完成しており、建物価格の値下がり時に新築されているから、前基準年度の評点数を減額補正すべきである。

第三当裁判所の判断

一  固定資産の価格の評価について

1(一)  固定資産の課税標準となるべき価格は、固定資産の賦課期日(毎年一月一日)における価格で、固定資産課税台帳に登録されたものである(地方税法三五九条、三四九条、三四九条の二)。

(二)  そして、この価格は、適正な時価をいうとされているところ(地方税法三四一条五号)、固定資産の評価の適正化と地域的な均衡化を確保するため、自治大臣は、固定資産の評価の基準並びに評価の実施方法及び手続について、固定資産評価基準(昭和三八年一二月二五日自治省告示第一五八号。その後に改正されたものを含む。以下「評価基準」ともいう。)を定め、これを告示しており(地方税法三八八条一項)〔なお、その具体的な取扱いについて、「固定資産評価基準の取扱いについての依命通達」(昭和三八年一二月二五日自治乙固発第三〇号)及び「固定資産評価基準に基づき自治大臣が別に指示する事項について」(昭和五三年一一月一六日自治固第一五八号)が定められている。〕、市町村長が固定資産の価格を決定するには、右評価基準に従ってしなければならないとされている(地方税法四〇三条一項)。

2  したがって、特定の家屋の評価が適正な時価を超えていないかどうかは、当該家屋の評価が評価基準に従って行われたか否か、また、そもそも、当該評価基準に定められた評価方法が合理的なものであるか否かによって判断すべきものと解する。

ただし、後者については、憲法上、いかなる課税標準を採用するかについては、すべて法律によるものとされているから(憲法八四条)、課税標準としていかなる評価方法を採用するかは立法政策の問題として広く立法府の合理的な裁量に委ねられているものと考えられ、したがって、それが著しく妥当性を欠くなどの特段の事情のないかぎり、立法裁量の範囲内にあるとして、これを合理的なものと考えるのが相当である。

二  本件登録価格について

1  評価基準によると、本件家屋のような非木造家屋の場合、当該家屋の再建築費(当該家屋と全く同一のものを評価の時点でその場所に再建築するとした場合に必要とされる建築費)を基礎とし、これに時の経過によって生ずる当該家屋の損耗状況による減価を考慮し、さらに、必要に応じて、需給事情による減価を考慮して、当該家屋の価格を算出する。

すなわち、具体的には、家屋の構造別及び用途別に区分して定められている「非木造家屋再建築評点基準表」(別表12)によって、家屋の各部分ごとの評点項目に対応する標準評点数について、補正項目について定められている補正係数を乗じて得た数値に、その計算単位(例えば、延べ床面積など)の数値を乗じて算出した各部分別の再建築費評点数を合計することによって再建築費評点数を算出し、これに家屋の損耗の状況による減点補正率(経年減点補正率又は損耗減点補正率)を乗じ、さらに、必要がある場合には、需給事情による減点補正率を乗じて、当該家屋の現在の再建築費評点数を付設し、これに、評点一点当たりの価額を乗ずることによって評価額を算出する。

2  なお、固定資産税の課税標準となるべき価格は、土地及び家屋の場合には、原則として、基準年度(昭和三三年度及び同年度から起算して三年度ごとの年度、三四一条六号)の価格が翌年度(「第二年度」という。)及び翌々年度(「第三年度」という。)まで三年間据え置かれることとされており(地方税法三四一条六号、三四九条)、新築した家などのように、第二年度、第三年度において新たに固定資産税が課せられるものは、基準年度の価格がないので、その土地又は家屋に類似する土地又は家屋の基準年度の価格に比準する価格で課税台帳に登録されたものが課税標準とされる(地方税法三四九条四項、六項)。

また、固定資産を評価する場合において、道府県知事が地方税法七三条の二一第三項によって当該固定資産の所在地の市町村長に通知した価格があるときは、固定資産評価員(地方税法四〇四条一項)は、道府県知事がその評価をした後に当該固定資産について地目の変換、家屋の改築、損壊その他その通知された価格によりがたい特別の事情がない限り、その通知された価格に基づいて当該固定資産を評価しなければならない(地方税法四〇九条二項)。

3  成立に争いのない乙第二ないし第七号証に弁論の全趣旨を総合すると、次の事実が認められる。

(一) 本件家屋は、平成五年一月二二日に完成した。したがって、本件家屋の不動産取得税の課税標準となるべき価格は、取得時の平成五年一月二二日現在の価格となるが、平成五年度は平成三基準年度の第三年度にあたるため、コザ県税事務所は、本件家屋を平成三基準年度の固定資産評価基準に従って評価した(地方税法三四九条六項)。

(二) そして、沖縄県知事は、地方税法七三条の二一に基づき、宜野湾市長に対し、右価格を通知した。

(三) そこで、宜野湾市固定資産評価員は、基準年度(地方税法三四一条六号)にあたる平成六年度の本件家屋の価格について、県知事から通知された前記価格を平成六基準年度の価格に評価替えした。

すなわち、まず、本件家屋は、固定資産評価基準の「非木造家屋再建築費評点基準表」(別表12)における「鉄筋コンクリート造」の「病院、ホテル用建物」に該当するとした上で、別紙のとおり、県知事通知の各部分別の標準評点数を基準年度である平成六年度の標準評点数に置き換えて再建築費評点数を一四万〇一〇二点と算出し、これに、経年減点補正率(〇・九八四)及び評点一点あたりの価額(一・一〇円)をそれぞれ乗じて、本件家屋の評価額を金四億〇九〇〇万四〇〇〇円と算定した。

なお、平成六基準年度における固定資産評価基準の「非木造家屋再建築費評点基準表」(別表12)における「鉄筋コンクリート造」の「病院、ホテル用建物」の標準評点数が別紙記載のとおりであることは当事者間に争いがない。

三  争点について

1  原告の主張1について

(一) 依命通達第三章第一節二によれば、「物価水準による補正率」については、家屋の資材費、労務費等の工事原価の地域的格差等を考慮して、木造家屋及び非木造家屋の別に定められており、木造家屋については、東京都(特別区の区域)を一・〇〇として、指定市及び指定市以外の市町村を通じ一・〇〇、〇・九五及び〇・九〇の三段階に区分して定められているが、非木造家屋については、東京都(特別区の区域)を一・〇〇として、指定市及び指定市以外の市町村を通じて東京都(特別区の区域)と同一の率とするとされており、例外は認められていない。

これは、非木造家屋における地域的格差は、その資材である砂、砂利等について若干の地域的格差があるものの、木造家屋の建築費の地域的格差に比較して極めて少なく、非木造家屋の建築費の地域的格差の平準化の傾向は、木造家屋の建築費の地域的格差に比してよりその傾向が強いこと、当該建物を建築する請負業者も木造家屋の場合に比較すれば極めて限定されており、現実の建築費においても地域的格差は少ないのが通常であり、特に、工事原価における地域的格差は極めて少ない範囲にとどまっているものと推定されることによるものであり(成立に争いのない乙第九号証)、右通達が明らかに不合理であるとはいえず、右通達に従って、沖縄県において東京都(特別区の区域)の数値をそのまま採用したことも、明らかに合理性を欠くとまではいえない。

なお、原告は、成立に争いのない甲第二五号証によれば、東京と沖縄では建築費及び労務費に大きな地域的格差がある、すなわち、これらについては沖縄は東京よりも安いと主張するが、前掲甲第二五号証によると、資材費についてはそれらとは反対の地域的格差が東京と沖縄にはあること、すなわち、資材費については沖縄は東京よりも高いことが認められ、これらを総合して考慮すると、一概に、原告の主張のとおりであるということはできない〔なお、前掲甲第二五号証においても、「現行の非木造家屋に係わる『物価水準による補正率』(一・〇)を積極的に改正する理由は強いて見いだすことはできない。」とされている。〕。

(二) したがって、本件家屋を評価するに際し、物価水準による補正率として一・〇〇を適用した点に違法はなく、原告の主張は理由がない。

2  原告の主張2について

(一) 固定資産評価基準第2章第3節三及び依命通達第三章第二節八によると、非木造家屋の損耗の状況による減点補正率は、原則として、「非木造家屋経年減点補正率基準表」(別表第13)によって求めるものとされており、「非木造家屋経年減点補正率基準表」(別表第13)は、建物を用途別及び構造別に区分し、それぞれにつき、経年減点補正率を定めている。

これは、家屋の経年に伴う減価は、その構造及び用途の違いによって、その強度や耐久性及び陳腐化の進行度等が異なることによるものであり、右基準が明らかに不合理であるとの立証はない。

(二) また、一棟の建物が複数の用途に使用されている場合の取扱いについては、地方税法及び固定資産評価基準に明確な規定はなく、したがって、これは、解釈、運用に関する問題である。かかる場合、原告主張のように、用途部分ごとに経年減点補正率を適用すべきであるとする立場と、被告主張のように、一棟の中で占める割合が多い主たる用途に適用すべき経年減点補正率によるのが相当であるとする立場とが考えられ、いずれの解釈によるべきかについては、法律に規定されているものではないから、当不当の問題は生じても、適法違法の問題を生ずるものではない。そこで、行政事務の簡便性を考慮して後者の立場を採用することも相当と考える(成立に争いのない乙第一二号証の一によれば、実務上も、このように取り扱われていることが窺われる。)。

そして、前掲乙第五号証によれば、本件家屋の場合、総床面積二六九七・〇九平方メートルのうち、住宅部分が三〇五・六五平方メートル(約一一・三パーセント)、病院部分が二三九一・四四平方メートル(約八八・七パーセント)であることが認められる。

(三) 以上によれば、本件家屋を「病院、ホテル用建物」として、その経年減点補正率(〇・九八四)を適用して評価したことは適正であり、原告の主張は理由がない。

3  原告の主張3について

(一) 前記のように、再建築費評点数は、家屋の構造及び用途別区分に応じて、非木造家屋については九種類定められている「再建築費評点基準表」(別表12)により、家屋の各部分ごとの評点項目に対応する標準評点数に、補正項目について定められている補正係数を乗じて得た数値に計算単位の数値を乗じて算出した部分別再建築費評点数を合計することによって求める。

そして、評価基準第2章第3節二4(4)は、「各部分別に再建築費評点数を求める場合において、各部分の使用資材等の数量が明確なときは、該当標準評点数及び当該数量を基礎として当該部分の再建築評点数を求めるものとする。」としている。

(二) そして、この場合において、使用資材の種類や使用量、仕上げ面積が、建物工事見積書や設計図等によって把握できるときは、それを基礎として、その部分の再建築費評点数を求めることができるとするのが相当であり、成立に争いのない乙第一二号証の二、第一四号証によれば、実務上も、このように取り扱われていることが窺われる。

(三) 弁論の全趣旨によれば、宜野湾市固定資産評価員は、家屋を評価するにあたって、見積書や設計図面等を取り寄せて、使用資材の使用量を把握し、現況を確認して評価し、類似の建物等と比較して極端な評価が出たものについては、施工業者等に聞き取りを行い、施工程度による補正をしていることが認められる。

(四) したがって、本件家屋につき、見積書に基づいて「使用量が明確な建物」として評価したことは適正であり、原告の主張は理由がない。

(五) なお、鉄筋の使用量について鉄骨造建物と同様に控除すべきである旨の原告の主張は、その根拠が不明であり、採用し得ない。

4  原告の主張4について

(一) 前記のように、固定資産評価基準第2章第3節三によると、非木造家屋の損耗の状況による減点補正率は、原則として、「非木造家屋経年減点補正率基準表」(別表第13)によって求めるものとされ、天災、火災、その他の事由により、当該非木造家屋の状況からみて、非木造家屋経年減点補正率基準表によって損耗の状況による減点補正率を求めることが適当でないと認められる場合、又は、当該非木造家屋の経過年数が明確でない等の事由により、非木造家屋経年減点補正率基準表によることができない場合には、当該非木造家屋の部分別に、「非木造家屋部分別損耗減点補正率基準表」(別表第14)によって求めるものとされている。そして、非木造家屋経年減点補正率基準表によって損耗の状況による減点補正率を求めることが適当でないと認められる場合とは、天災、火災その他家屋の改築等の理由により、経年減点補正率によって当該家屋の損耗の状況による減点補正率を求めることが適当でないと認められる場合をいうと解するのが相当であり、かかる場合においては、当該個々の家屋の損耗の状況に応じて損耗減点補正率を求めるものとされていることからすれば、台風常襲地域等一定地域に所在する家屋について、一律に一定率の損耗減点補正率を適用する等の画一的な取扱いは法は予定していないものというべきである。

(二) そこで、本件家屋についてみるに、本件家屋は、台風又は潮風の被害を被り、経年減点補正率を適用すると不当な結果を招来することになる建物であると認めるに足りる証拠はなく、また、経過年数が明確でない等の事情も認められないから、原告の主張は理由がない。

(三) したがって、本件家屋の評価に際し、原則どおり、経年減点補正率を適用した点に違法はなく、原告の主張は理由がない。

5  原告の主張5について

(一) 地方税法三五九条は、固定資産の賦課期日を当該年度の初日の属する年の一月一日と規定している。そして、同法四〇九条一項は、当該市町村に所在する土地又は家屋の評価をする場合には、同条に掲げる表の区分に応じて評価しなければならないと規定している。

なお、土地及び家屋の場合、固定資産の課税標準となるべき価格は、基準年度の評価額を三年間据え置くこととされているが、これは、土地及び家屋にあっては、その資産の数は多く、一方、それらの資産の価格の変動は比較的少ないと考えられるところから、税負担の安定を期すると共に、課税事務の簡素化を図るためであり、合理的である。

(二) また、不動産取得税と固定資産税は、ともに地方税であり、その課税客体の範囲は、原則として、一致し(地方税法七三条二、三号、三四一条二、三号)、課税標準となる価格も、同じく、「適正な時価」をいうとされている(地方税法七三条五号、三四一条五号)。このように、両税は、同一の課税客体を同一の基準で評価することになるから、その評価については、これを統一するものとして、市町村間の評価の均衡を図り、評価事務の簡素化、合理化を行うこととしている。

すなわち、具体的には、道府県知事は、固定資産課税台帳に固定資産の価格が登録されている不動産については、原則として、その価格によってその不動産に係る不動産取得税の課税標準となるべき価格を決定し、他方、固定資産課税台帳に固定資産の価格が登録されていない不動産については、道府県知事は、独自に、固定資産評価基準によって、不動産を取得したときにおける時価による評価を行い、不動産取得税の課税標準となるべき価格を決定し、その価格を市町村長に通知することとなっている(地方税法七三条の二一第一ないし第三項)。

(三) 本件家屋は、コザ県税事務所において調査を行って価格を決定したものであり、地方税法七三条の二一第三項により、当該価格が宜野湾市長に通知され、それを受けて、宜野湾市の固定資産評価員は、地方税法四〇九条一項及び二項により、それを同条の同表の区分に従って評価したものである。

すなわち、本件家屋は、平成五年一月二二日に完成しているので、不動産取得税の課税標準となるべき価格は、取得時の平成五年一月二二日現在の価格になるが、平成五年度は平成三基準年度の第三年度にあたり(地方税法三四一条八号)、第三年度において新たに課税することになる固定資産に対して課する固定資産税の課税標準は、当該固定資産に類似する固定資産の基準年度の価格に比準する価格であるから(同法三四九条六項)、平成三基準年度の固定資産評価基準に従って評価された。これに対し、本件家屋の固定資産税の課税標準となるべき価格は、本件家屋が平成六基準年度に所在する家屋であるため、地方税法四〇九条一項により、平成六基準年度の固定資産評価基準により評価されることになる。

(四) たしかに、不動産取得税は、土地又は家屋を取得したときの現況において課税するものであるのに対し、固定資産税の賦課期日は、当該年度の初日の属する年の一月一日となっており、両者間には課税標準となるべき価格の決定時期に開きが生じるので、その間に「地目の変換、改築、損壊その他特別の事情」のために価格が変動することがあるから、このような場合には、登録価格あるいは通知価格に基づくことは評価の適正を欠くことになるため、両者とも独自に評価することになる。

しかしながら、地方税法四〇九条二項が同法七三条の二一第一項と共に、土地及び家屋については不動産取得税と固定資産税という両面から道府県知事又は市町村長が競合して評価をすることとなるので、その評価を統一し、同一課税客体につき別個に評価することを避け、課税の簡素化を図る趣旨であることに鑑みれば、「地目の変換、改築、損壊その他特別の事情がある」場合(地方税法四〇九条二項)を広く捉えることは相当ではなく、これは、土地にあっては、その土地の全部又は一部について、用途変更による現況地目の変更又は浸水、土砂の流入、隆起、陥没、地滑り、埋没等によって当該土地の区画、形質に著しい変化があった場合をいい、また、家屋にあっては、改築、損壊、増築、大規模な附帯設備の更新又は除去等、当該家屋の価値に大幅の増減を来した場合をいうと考えるべきである。すなわち、土地又は家屋の価格に大幅な増減を招いた原因が土地又は家屋自体に内在する場合をいい、その原因が土地又は家屋に内在していない場合は含まれないというべきである。

したがって、原告が主張する本件家屋の時価が下がったことは、右の「特別の事情」には当たらないというべきである。

(五) 以上のことから、コザ県税事務所で決定され、地方税法七三条の二一第三項により県知事から通知された本件家屋の価格が平成五年度(平成三基準年度の第三年度)の価格であるため、この価格を基礎にして、平成六基準年度の価格へ評価替えしたことは適正な評価であり、原告の主張は理由がない。

第四結論

以上によれば、本件家屋の価格算定の基準としての固定資産評価基準(地方税法三八八条一項)に不合理であることを窺わせる事情は認められず、また、本件登録価格は、右基準に従って適正に評価されて決定されたことが認められる。

したがって、本件決定は適法であり、原告の本訴請求は理由がないからこれを棄却し、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法七条、民事訴訟法八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 稲葉耶季 近藤昌昭 平塚浩司)

別紙物件目録、別紙<省略>

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